Dr.タカギの昆虫トピックス

チャバネアオカメムシは果物の種子が好き

 果樹を加害するカメムシは、チャバネアオカメムシを主としてクサギカメムシ、ツヤアオカメムシ、アオクサカメムシ等カメムシ科に属するものである。これらのカメムシが果樹に加害するようになったのはおそらくカキが最初であろうと思われる。カキは我が国固有の植物であり、カメムシ類の餌としての関係も非常に長いものであった。チャバネアオカメムシの生態は他の昆虫と比べてそれほど変わったものではない。成虫が枯れ葉などの下で越冬し、春になると餌となる種子を探して飛び回る。5月から6月にかけて餌となる種子は、早春に花の咲くサクラ、桑、コウゾ、コブシ等である。これらの植物は落葉植物で、日本全国に普通に分布している。7月になると針葉樹の種子(球果)が充実してきて餌になり、コクワ、ノブドウ等もそれに加わる。

 カメムシはこれらの餌があれば卵を産むこと(繁殖)が出来る。8月に新しい世代の成虫が現れ、関東ではそのまま越冬に向かうのである。従ってこの虫は一年に一回発生するだけである。通常、産卵後幼虫が完全に発育できるこのような餌はそれほど多くはない。しかし、果樹園で被害が多発する地域では豊富な針葉樹(スギ、ヒノキ、サワラ)等が人工植林されている。そこでは時々種子が非常にたくさん出来ることがある。餌が充分あればカメムシの産卵量は多く(150〜300)、天敵が少ない場合には一世代で大発生することになる。それでも餌が足りている間は山林で暮らしているが、餌が足りなくなると周辺に飛び立ち、餌を探すことになる。このような例は昆虫ではないが、野生のシカやクマ、サル、イノシシ等が増えすぎて人里に現れ、畑を荒らす現象と本質的には同じものである。

 栽培果樹の果実は餌植物であるが増殖には不適当な餌である。たとえばチャバネアオカメムシはモモやナシの幼果を餌として与えられた場合、卵巣が発達せず子孫を残すことは出来ない。それにもかかわらず、なぜ野菜や花卉ではなく、果樹のモモやナシがカメムシの襲撃を受るのだろうか? 最近の調査で果実の種子で飼育すると完全に発育する事が確かめられている。栽培しているナシ、モモ、リンゴ等では、果肉が厚いため種子には届かず、増殖できないのである。何世紀か前までは良い餌だった野生の果樹が、改良されて栽培果樹となった現在も、何らかの遺伝的な形質に誘われて種子を求めて果樹園に飛来するものと考えられるのである。

リンゴの種子で成虫まで発育 カラタチの種子を食べる2齢幼虫
リンゴの種子で成虫まで発育カラタチの種子を食べる2齢幼虫